潤滑について
モーターオイルに於ける潤滑は主に3種類の潤滑状態があります。
【流体潤滑】
流体潤滑とは、摩擦部分に油膜が形成され、二面が直接接触せずに離れた状態で潤滑される事を言います。(潤滑油の抵抗力、粘度は、物体を浮かせる事が出来ます)
この潤滑形態を工業的に利用されているのが「滑り軸受」と呼称されます。
滑り軸受とは、回転する軸を支える軸受の一種で、自動車のクランクシャフト等に用いられています。
オイルポンプが油圧を発生し、軸が回転すると、それに伴い潤滑油が狭い隙間へと引きずり込まれ圧力が発生します。(この圧力で軸を浮かせて摩擦力を減らします)
また、旧車等のエンジンでは、流体潤滑によるオイルの粘度でシーリングするエンジンもあります。
この様なオイルシーリングにより燃焼室の気密性を保持するエンジンに、低粘度オイルを使用しますと「オイル上がり現象」*が発生する事があります。
表面粗さに比べて十分に厚い潤滑剤の膜が形成され、摩擦面間を完全に分離している状態で摩擦係数は流体の粘性抵抗で決まります。
一般的に摩擦係数は0.01程度です。
*オイル上がり現象:ピストンクリアランスが広めのエンジンやピストンリングが摩耗している際に低粘度オイルを使用した時に発生しやすい現象です。
オイルがクランク室から燃焼室まで上がっていく現象の事を指し、燃焼ガスと一緒にオイルが燃焼してしまう為、正常時よりオイルに燃えカス(カーボンスラッジ等)が混入して早く黒ずんでしまいます。
この状態で使用し続けますとオイル劣化も早くなり、オイルに高温の燃焼ガスが混入する事によりオイル希釈が促進されて粘度低下が発生します。
低粘度オイルが更に低粘度化してシャバシャバになってしまいますと、ピストンとシリンダーの気密性が保持されず、酷くなると排気からオイルの焼けた様な臭気や白煙が発生します。
【境界潤滑】
流体潤滑の様に潤沢な油膜が出来ない状態では、分子物理学の膜で二面間を潤滑します。
これが表面の化学的性質が重要な境界潤滑の世界で、表面に吸着したわずかな分子膜や、添加剤による表面の改質層が摩擦力を減らします。
一般に潤滑油は、原油を精製して作ったベースオイルに添加剤を混ぜて作ります。
わずか分子十数枚の添加剤の吸着膜によっても摩擦係数を大きく下げる事が出来るので、多い時には20種類以上もの添加剤を組み合わせる事があります。
油圧が発生していない静止状態になると(エンジン停止状態)流体潤滑から境界潤滑となり、クランクシャフトは自重により座面に着地します。
再びエンジンを始動した際の金属接触を最小にし摩耗を減らす様、低粘度用添加剤パッケージは重要な役割を果たします。
ミッションギア・デファレンシャルギアの歯面等も境界潤滑状態となりますので、極圧剤(EP剤)等で強力な化学反応膜を金属表面に形成し焼き付きを防止しています。
接触している二つの摩擦面が極めて薄い潤滑剤の膜で分離されていて、部分的に固体の接触が生じている状態。
境界潤滑は潤滑剤の粘度や量の不足によって発生し、一般的に摩擦係数は0.1前後です。
【混合潤滑】
混合潤滑とは、流体潤滑と境界潤滑の性質が混じり合った潤滑状態の事を指し、 自動車に於いては摩擦を低減させるエンジンオイルを始めとした潤滑油を用いた時にみられます。
粘度が高くなると流体潤滑になり易くなりますが、粘度が高過ぎると流体摩擦抵抗が大きくなってしまうので、粘度と潤滑剤の選定が重要となります。
近年の低粘度オイルで潤滑する事を念頭に設計されたエンジンでは、ピストンリングの張力と薄い油膜で圧縮を保持し、ピストンリングの厚みも非常に薄く設計されています。(オイルラインも低粘度オイルを想定して狭く設計されています)
但し、指定粘度が高めの高出力エンジンや鍛造ピストン等、ピストンクリアランスが広めのエンジン等では、流体潤滑によるオイルの粘度でシーリングするエンジンもありますので、熱量の高いエンジンやピストンクリアランスが広いエンジン等では、油膜の強い高粘度オイルの選定をお薦めします。
混合潤滑の物体同士の摩擦係数は、0.1から0.01の間に収まると言われています。
※燃焼室で圧縮爆発した際の燃焼温度は、1600~2000℃近くにもなります。(その際のピストン内の温度は、300℃にも上昇し、シリンダー壁面温度は、200℃に達します)
エンジンオイルの油温を何処で測るかにも寄りますが、油温が100℃以下であってもピストンのトップリングの境界潤滑部分の温度は高温に晒されます。
低負荷時より高負荷での走行を多用する状況での低粘度指定オイルのエンジンでは、0W-20指定であっても「0W-20もしくは5W-30」や「0W-20が入手できない際には5W-30も使用できます」と記載がある場合は、問題無く5W-30のオイルは使用可能です。(記載無くても使用環境や使用オイルによっては使用可能だと思います)
サーキット走行や連続周回するレース等では常に高回転高負荷状態で使用されますので、なるべく油膜強度が高く圧縮保持可能なオイルを選定する事をお薦めします。
【油膜強度】
厳しい高温・高負荷環境では、摩擦条件によっては油膜が断たれてしまいます。
油膜が断たれてしまいますと、金属同士の接触により擬着(二つの固体のそれぞれの面が液状に溶けて融合付着する事)が発生し、焼き付いてしまいます。
低温・低負荷時に発生しなくても、厳しい条件下での走行を持続する事により、問題のなかった潤滑作用が一変して、様々な問題を引き起こしてしまう事を考慮した潤滑条件に適合した潤滑剤と粘度選定が必要になります。
高温・高負荷時での油膜の焼き付き防止にHTHS(High Temperature High Shear Viscosity)粘度の数値を参考にしたオイル選定方法がありあます。
サーキット走行の様な高温高負荷が掛かる状況や熱量の大きなハイパワー車にはHTHS粘度の数値がなるべく高いオイルを選択する事をお薦めします。